★★★★☆鉄コン筋クリート


松本大洋による同名の漫画をアニメ化した作品。漫画連載時に結構好きだったので、映画がレンタル解禁されてすぐに観た。

シロ、クロという名の親のいない子供が、周囲の開発から取り残された下町で暮らしている。彼らは大人になつかず、廃車の家に住み、カツアゲやスリなどの犯罪行為で生活を成り立たせている。そこへある日、子供向けのレジャーランド経営を生業とする海外系のマフィアが進出して来て、目障りなシロ、クロを退治しようと三人の殺し屋を放つ...。

本作は原作のストーリーをほとんど忠実に辿っている。また原作の絵がもつ独特の世界観を努めて再現していて、製作者の原作に対する思い入れが強く感じられる。しかし本作はひとつの重要な要素により、単なる人気漫画の映画化という枠を超えてしまったと感じる。

それは声優陣、とくにシロ役の蒼井優の好演による。原作では何気なく話されるいくつかの言葉が、蒼井優によってとても大切な言葉になっている。そのことにより、原作と比べて本作ではシロの存在感は圧倒的になっている。作品の中での存在感ではなく、作品そのものの存在感を大きく押し拡げているのである。

原作が発表されてから十余年経ち、当時の読者なら誰の中でもシロ、クロのつながりや宝町の景色に対してノスタルジックでセンチメンタルな美化が起こっている。おそらく映画制作者についてもこれは同じで、この作品はそういう期待を満足させることをターゲットに演出されるているとともに、原作に対する強いオマージュともなっている。そしてそれは成功していると思う。

絵作りに関してはおおむね質が高いが、作品中でさまざまな表現を試しているために一貫性がない。脚本、構成に関しては、限られた尺の中で原作を生かしたいという苦労の結果なのだろうが、大切な場面が省略されていたり、原作のある場面を別の文脈で無理やり入れたりしてやや不満が残る。特に終盤のイタチとの対峙で、クロがシロを信じる理由を説明する大切な台詞が抜けているし、最後になぜシロとクロが海に行ったのかの説明がない、などは残念な要素になるだろう。

それにしても、シロとクロの結びつきの強さをあらわすシロのこの台詞。

『でもクロの無い所のネジ、シロがもってた。シロがみんな持ってた。』

これは漫画史上(および映画史上)に残る素敵な言葉だと思う。