ソウルフードとは、かつて貧しいアメリカ黒人たちが白人の食べない鶏や豚の内臓や足などで作った料理。それが転じてそれぞれの地域や民族で、子供の頃から食べてきた食べ物のことをさす。日本語でいえば『おふくろの味』というところか。
最近見たふたつの邦画(『UDON』、『かもめ食堂』)で、日本人にとってのソウルフードという話が出てきた。『UDON』ではもちろんうどん、『かもめ食堂』ではおにぎりのことをそう呼んでいた。そこで、勝手にランキングを作ってみた。人によってもちろん順位の違いはあろうし、異論もあるだろうがそこは笑っておさめてほしい。
【10位】かけそば
かつて『一杯のかけそば』という童話が話題となった。貧しい母子が毎年大晦日にかけそばを食べに来る。三人の母子は一杯のかけそばを分け合って食べ、帰って行く。日本中を感動の渦に巻き込み(とマスコミで喧伝され)、次に作者が寸借詐欺師であること、物語も実話ではなく創作の可能性が高いことが判明してバッシングにあった。実は私は結構な泣き上戸だが、この作品はあまりの物語の陳腐さにあきれてしまった記憶がある。とはいえ当初は多くの人が感動したと言っていたわけであり、かけそばという食べ物が日本人の心の琴線に触れるのは確かだと思う。年越し蕎麦は、大晦日の夜に一家そろって食べる。大晦日は掛け取り(商店のツケの回収)があり、庶民にとって払えるかどうかは大問題。それもすべて済ませて、除夜の鐘を聞きながら煩悩を忘れ、蕎麦を食べながら新しい年を迎える。蕎麦は救荒食物であったこともあり、江戸時代の人にとってはソウルフードNo.1かもしれない。しかし今はかけそばは駅でサラリーマンがかきこむファストフードに成り下がり、そうでない蕎麦は高価で風雅な食べ物となってしまっている。世代によるかもしれないが、自らの体験でかけそばを想いジーンとするひとは少ないと思うので、10位とする。
【9位】ラーメン、牛丼
学生時代、金がなくてラーメンばかりだったという人は多いはず。それも今風の凝ったものではなく、しょうゆだしの中華そば。ナルトとシナチクと薄いチャーシュー、場合によってはワカメとネギものっている。金があるときや体調が悪いときは生卵をのせてもらう。これとインスタントラーメンを合算すれば、それこそ俺の青春時代の主食だ!という人も多かろう。牛丼はラーメンと比べるとやや情緒性に劣るが、安くて早くて腹が膨れるので同じような役割を果たしてきたと思う。しかし先祖代々食べてきたものではないこと、子供の頃から食べてきたものでもないことから、9位とする。
【7位】ハンバーグ、カレーライス
子供が大好きな料理。簡単なのでお母さんもよく作る。ハンバーグはお弁当、カレーライスは夕食の定番中の定番。育ち盛りの子供の体の体重のかなりの部分はこのふたつの料理に由来するものではなかろうか。味付けも家庭ごとに個性があるし、ソウル度は高い。しかしこれも『子供の料理』といってしまえばそれまでで、あまり高位には上がれない。
【5位】目玉焼き
朝食はごはん派とパン派がいると思うが、パン派にとって外せないのが目玉焼き。3人兄弟とかだとフライパンで3つ一緒に焼いて、フライ返しで切って取り分ける。絵になる光景だが、日本的でないのがすこし弱い。
【4位】お茶漬け
『お茶漬けの味』という小津安二郎の映画と、まったく別の小松左京の小説がある。映画は未見だが、小説は遠く宇宙旅行をしてきた飛行士が知人がだれも生きていない地球に戻ってくる話だった。ストーリーを知らなくても、このタイトルをみれば誰もが望郷の念を抱くだろう。『俺はお茶漬けで育った』という人は少ないと思うが、それでもお茶漬けは日本人の心に染み付いている。
【3位】漬物
昔の庶民は、肉や卵を使った料理などはめったに食べられなかったろう。漁村を除けば魚もそう頻繁に食べられるものではなかったろう。そんな日々の食生活の上でおかずと呼べるものは漬物くらいだったに違いない。漬物は日本古来の保存食で、野菜類を醗酵させることにより保存性を増し、風味を増し、さらには栄養価も増す。地味ではあるが主食とともに日本人の命をつないできた食べ物なのである。かつては各家庭にぬか床があり、毎朝お母さんがきゅうりや茄子のぬか漬けを出してくれる。昭和の時代まではどの家でも見られた光景だとおもう。しかし最近は安価に作られた市販品で済まされれ、町の定食についてくる漬物も残されがち。残念ではあるが、飽食の時代にあってはあまり振り返られないものとなっている。
【2位】味噌汁
子供の頃、毎朝母親の味噌汁を作る包丁の音で目が覚める。実際にはそうでなかったとしても、多くの日本人が懐かしい子供時代の思い出の描写として認めるところだと思う。どんな日本食にも欠かせない。まさしく日本人の魂につながる食べ物。ただカロリーを得るという意味での主食ではないので2位とした。
【1位】おむすび
当たり前すぎて申し訳ないが、日本人としては米の飯を外すわけにはいかない。その中でもおむすびは携行食であり行動食であるため、勤勉で誠実な日本の庶民を支えて来た。さらに昔は銀シャリはめったに食べられないものであり、おむすびは収穫の喜びと感謝を神に捧げるお供えであり、最高のご馳走でもあった。現代でもおむすびはコンビニの定番商品で、忙しい企業戦士たちの活力を支えている。
黒人のソウルフードは、普段は意識をされることがなくても、民族の苦しみに満ちた過去、それに戦い生き抜いてきた誇りを想起する食べ物なのだろう。それゆえ彼らはそれに『魂の』食べ物という名を付けた。日本人がなにか大切な戦いをするときに用意する食べ物はなんだろう。やはりそれはおむすびだと思うのである。先日、生活保護を打ち切られた男性が餓死をする直前に『おにぎりが食べたい』という文を書き残していたと報道された。事件の論評は他に譲るとして、ソウルフードとはそういうものなのだろう。