某外資系生命保険会社の勧誘

会社を数ヶ月前に退職し、某外資系生命保険会社に転職した後輩が挨拶と称して勧誘に来た。会いもせずに門前払いをするほど不人情ではないし、もし納得のいく提案をしてくれたら今の国内系生保から乗り換えてもいいかもと思いながらあってみたら、とてもおもしろかった。数ヶ月の間でよっぽど徹底的に訓練を積んだのだろうと思うが、まったくの淀みない説明、素人の質問程度であれば1を聞かれて10も20も答えられるような暗記量。そして話の進め方が非常に興味深い。

まず通り一遍の挨拶と雑談で緊張をほぐした後、こんな話を知っていますかという語り口で国内で主流となっている国内系生保の主力商品について話を始める。ポイントは2点。1つ目は、あなたが入っている死亡保障の○千万円、これってある時点で\0になってしまうことってご存知ですか?もう1つは、あなたが今払っている月額○万円、これって先々何倍にも跳ね上がるってご存知ですか?

私が今の保険に入った数年前、それなりにいろいろ考えて決めたはずだが普段は考えることもないので正直忘れていた。それを改めて言われると、不覚にも知らなかったことを教えてもらったかのような形になる。そうやって話の主導権を巧みに握っていく。

保険というのは何種類あると思いますか。(さあ、5種類くらいかな。)惜しい、じつは3種類しかないんですよ。一つは定期保険、もう一つは終身保険、最後の一つは養老保険と呼ばれるものです。定期保険は、ある一定の年齢までは一定の保険金が保証されるがそれ以降は保証されない、いわゆる掛け捨てです。終身保険は保証が一生涯続く。ところで終身保険で受け取れる金額って、それまでに保険料として払い込んだ金額と比べてどのくらいだと思いますか。(うーん、半分くらいかな。)実は、だいたい同額なんですよ。それから、養老保険というのは定期保険に似ているんですが、満期になったときに死亡保険金と同額のお金がもらえるんです。

これらのどれがいい、どれが悪いという話ではないんです。それぞれに合った目的があります、としてそれぞれの特徴を教えてくれる。

入院費って一日にどのくらいかかると思いますか?手術代はどうですか?などと一つ一つ数字を出す際に必ず聞く。当然答えられる分けもないので、自動的に無知な顧客が専門家に大切な情報を教えてもらっているという形になっていく。

話の主導権を握ってはいるが、決して他社を非難したり中傷したり、私の現保険内容を批判したりしない。そうして、こちらが自分自身でネガティブな結論を出すのを促す。

そこまでたっぷり時間をかけた後で、うちの会社の最大の売り物はこういうコンサルティングです。契約をしていただければ、一生涯ずっと要所要所でご相談にのりますとたたみ掛ける。この時点ではまだ一切保険内容の提案はないし、現保険内容の詳細も伝えていないので具体的な話はない。

そしてまた、一般的な話として、人生の節々でどんなリスクがあって、保険はどんな時に役に立つかという話をノートに書きながら説明する。そしていくらくらいお金がかかるかをまた一つ一つこちらに聞きながら書き入れていく。そうして、あなただったらこの中で優先順位はどうですか、いくらぐらい保証が必要だと思いますかと聞き出していく。そうしてA4用紙いっぱいに書き上がった時点で、では、いまお伺いした内容をもとに次回ご提案をさせていただけますかと切り出す。実にスムーズな流れで詳細ヒアリングまで済ましてしまう商談の進め方は見事というほかはない。そして次回のアポイントを1週間後に取る。一回目は私の会社に来たが、二回目は近くのファミリーレストランに設定される。また、それまでに現保険証券のコピーをFAXで送ってくれないかと頼まれる。


第二回の商談。待ち合わせに20分くらい遅れて来たのはさすがに故意ではないだろうが、まずは軽い雑談から始まる。そして私の保険証券のコピーを元に分析をする。私の保険といえば、前回9割の人が入っていると説明された、死亡保障は60歳まで、保険料は10年ごとの更新で上がるという件のタイプである。これだと60歳までに払い込む保険料総額は○百万円ですね。でもほとんど戻ってこないんですよ。しかも終身部分で積み立てた保険金は、60歳の時点で新しく保険に入るのに使われることが多いので、保険会社にしてみればお金の入り口はあるのに出口がないみたいなものなんですよ。そもそも60歳前に亡くなる方は少ないですしね。

その後で、私の保険に対する考えをすこし自由に喋らせる。私としては、安い掛け捨ては利用価値が高く、貯蓄機能や投資機能は保険以外の金融商品でまかなえば良いと考えているということ、小額の支出を保険でカバーしたいとは考えて居らず、保険に頼りたいのは確率は低いが本当に困ったとき、例えば100万円の医療費がかかるときはなくても困窮しないのでカバーされなくてよいが、1000万かかった時には救ってくれるという保険がほしいと話をした。そういう方法で安くなる保険はないかと聞いたが、明確な答えはなくまずは作ってきた提案を見てほしいという。

この先もおもしろくて、まずは参考までにといって終身で死亡保障1億円という見積りを出してきた。これって保険料いくらと思いますかと聞かれたので暗算は苦手だが平均余命までに1億円払い終わるくらいの金額じゃないかと答えた。正解は22万円。

ではこれを終身ではなく65歳までの定期にしたらいくらになると思いますか。(うーん、65歳までに亡くなる方を1/10と考えると保険料も1/10かな。)正解は3万7千円です。ところで、万が一の時に必要なお金って30代から60歳まで一定じゃないですよね。60歳になるまで毎月20万円を受け取れるようにするとこの様に右肩下がりの三角形になりますが、この場合の保険料ってどうなると思いますか。(うーん、1/3くらいかな。)そうなんです。半分って答える方が多いんですが。

さて、それではご提案の説明をさせていただきます。前回こんなときにはこのくらい必要だろうとおっしゃっていたものを元に作りました。この保険は二つの部分で出来ています。まずは終身で1000万円。これはお葬式など、いつかは必ず必要になるお金を保証する部分です。それから毎月20万円を65歳になるまで。これは死亡時にも高度障害時にも出ます。なので最大で約9000万円、最低でも65歳以降1000万円出ます。さてこの保険料っていくらくらいだと思いますか。(そうだね、定期部分も終身部分も今の私の保険の3倍位の額だから、保険料も3倍じゃないですか。)

開けてみるとなんとぴったり。この時は珍しく褒めてくれなかったので、もっと高い金額を言うことを期待されていたのかもしれない。

その後、終身部分を半額にした見積りも見せてもらう。保険料のその部分がちょうど半分になっている。こっちとこっちでは、どちらがイメージに近いですか。(そうですね、両者の差は月々積み立てた金額の差だから、私としては本質的に差はないと思ってますよ。生命保険会社に預けるか、自分で運用するかの違いですね。最終的にはどっちでもいいのですが、生命保険会社に財産運用を任せようとはあまり考えていません。)

こう答える客もあまりいないのか、おもしろい切り返しはしてくれなかった。生命保険に貯蓄機能は求めない(掛け捨てでよい)というのは、現保険を契約したときのコンセプトでもあったし、それは彼にも伝えてあったのだが、出てきた見積りは定期部分の掛金が大体同じで、終身部分が1000万円分もしくは500万円分増えたような内容だった。細かい部分で同じではないのだろうが、素人目にはあまり違いを感じない。乗り換えられるほどの意義を見出せない。

ここまでのお話は、単なる保険の中身の話です。弊社のもう一つの特徴って覚えていただけていますか?(えーっと、うーん、ごめん、覚えていない。)弊社は保険を売っているだけではないんです。これからいろいろなことがあり、判断に困るような時に、担当である私が必ずお役に立ちます。弊社では担当者はずっと変わらないんですよ。たとえば定年退職したときにこれからどう運用するのがいいのか、万が一のことがあったときにご家族のご相談にものります。特に死亡一時金に関しては○百万円までは即日お支払い致します。これでとても助かったという方は多いんですよ。(なるほど...。)

どうですか。ここまでお話をさせたいただきましたが、ご検討いただけますか。(うん、検討はしてみるよ。)検討項目ってどんな部分になりそうですか。

(実はね、保険でカバーできる部分の話はよく分かるんだけど、保険でカバーできない部分はどこなんだろうという事が気になるんだ。例えば僕等の業界はうつ病がとてもおおい。うつ病で働けなくて収入が途絶えるという可能性はこの業界では誰でも否定できない。こういう場合ってこの保険では救われないんだよね。もちろんこれまではうつ病と診断されたことはないけど。)

はい、うつ病の人は保険に入れませんし、うつでは保険はおりません。

(それから、君も知っているとおり僕はこの夏ちょっとした病を得た。これはもちろん保険が出るような病ではないけれど、もう少し程度が悪かったらしばらくのあいだ働けなくなっていた可能性もあったと思っている。世の中にはずっと働けない人もいる。こういうリスクが今の私には一番ありえそうに思えるんだけど、この保険ではそれは救ってもらえないよね。)

そうですね...。

ここで、私が自分の健康に多少の不安を持っていることを読み取り、保険に入れるのは幸せなことなのだという話が始まった。

病気の方やその恐れのある方は保険に入れないんですよ。うちの保険は特に厳しいんです。私も本当に入れてよかったと思っています。

その後、申し込んでからどのように審査があって、契約開始になるかの説明。そしてぶっちゃけどうでしょう。もし興味がないのならこれ以上お話をさせていただいてもご迷惑なだけなのですが...と切り出し、クロージングに入る。相手に判断を迫るときは、少し突き放し具合がちょうどいい。

(そうだね。今日いろいろ話をしてもらってとても勉強になったし、検討する価値は十分にあると思っているけれど、いちど時間をあけて、頭をクールダウンをしてからもういちど検討をさせてもらえないと何の判断もできないよ。)

ということで次回のアポイント。次の指定は休日に私の家の近くでという希望を行って来た。おそらく自宅に上がることが出きればfoot in the doorで相手の更なる譲歩を得やすいし、好きなだけ居座れるということで精神的に強い立場に立てる。なんといっても実印がその場にあるので、決定しやすいし断る側は断りにくい。クロージングの極意なのかもしれない。