今日はナンシーへ移動する。早朝5時30分すぎにホテルをチェックアウトし、大聖堂まで一度足を伸ばしてから駅へ。大聖堂は真っ暗でよく見えなかった。とても寒い。駅では既に売店とカフェが開いていたので、クロワッサンとレーズンパイ、コーヒーで朝食をとる。フランスのクロワッサンは本当に美味しい。乗り込んだ列車はきれいで快適。平日朝のためか学生が乗り降りをしていた。しばらく外は真っ暗だったがだんだん東が白んでくる。どこまでも続く小麦畑に薄く靄がかかっている。
車窓からみるフランスの農村の家はシンプルだが、たいてい新しい。昔ながらの石造りの家よりは近年のコンクリ造りのものが多い気がする。風景の趣きという面ではちょっと残念だが、家を建て替えられるくらい豊かなのだろう。
ナンシーの駅では、水たまりに薄氷が張っていた。かなり冷え込んでいる。駅前は雑然とした近代的な町で、車が行き交っている。まずは歩いて世界遺産のスタニスラス広場へ向かう。ナンシーはアールヌーヴォーの町。駅前の商店のショーウィンドウにも装飾品が並ぶ。基本的に都会なのでアスファルトの歩道を歩くが、とおりの上にはクリスマスのイルミネーションが準備されている。
やがて黒と金がうねるように絡み合った鉄製の門が見えてきて、世界遺産スタニスラス広場についた。まだ時間が早く、通勤の人が足早に広場を通り過ぎていく。冬の朝だ。この広場はすべての出入り口が黒と金の門で装飾されていて、特に2つの角に置かれた門には彫刻と噴水がほどこされている。さほど大きくはないが、見事な造形だ。広場の中心には銅像が建っている。
市庁舎の正面にある凱旋門をくぐりカリエール広場へ行くが、こちらは立ち木が丸坊主でやけに寂しい。木が鬱蒼と茂った夏は美しい広場になるのかもしれない。細長い広場の両端にある門は、やはり黒と金の装飾だ。これがこの街のテーマということか。
インフォメーションで地図をもらった後、ホテルを探す。ガイドブックのホテルはちょっと遠いので付近を回ってみたら、アカデミアという名の安ホテルが見つかった。フロントにいこうと階段を登ると鍵がかかっている。あれ?とおもっていたら数人の女の子が降りてきて受付をしてくれた。英語は通じなかったので片言のフランス語。数字は筆談でOKだ。部屋は30.3ユーロとかなり安いが、エレベータなしの最上階、屋根裏部屋だった。シャワーは後付けの電話ボックスみたいな形で壁際に鎮座している。トイレもついていたが紙がなく、パイプも細いのでおそらく小用専用。決して小ぎれいな部屋ではないが十分だ。階下で赤ん坊の泣き声が聞こえる。
とりあえず荷物を下ろして町に出る。スタニスラス広場に面したナンシー美術館に入る。入館料は6ユーロ。ここは主として絵画の展示をしており、1階にピカソ1点、モディリアーニ1点、ボードレールが1点あった。2階は宗教画で興味なし。3階ではフェディリオ・フェリーニのイラスト展をしていたが、少々どぎつくてあまり好みではない。
次にもういちど凱旋門をくぐり、クラッフ門へ行く。中世的などっしりした門で、中の道は途中でくの字に曲がっている。ナンシー派の芸術家、ヴァイセンビュルガーの家を外から見るが家自体はどうということはない。さっきクラッフ門の近くにいくつかレストランがあったので、そのあたりで昼食をとろう。
レストラン選びは言葉が不自由なこともあってなかなかに難しく、結構迷ったあげく、1件のレストランに入る。Plato du Jour(今日の一皿)というのがキーワード。それから白のグラスワインで、11ユーロ。チキンのクリーム煮と、チーズ味のフォトチーネ、それにサラダがのっていてとても美味しかった。
ワインですこし気分がよくなって町をそぞろ歩く。日が高くなって寒さも和らいでいる。この町はスタニスラス広場周辺よりも、南側のトラム(路面電車)沿いが賑やかでおしゃれな店も多い。
駅に戻り、明日の行動を考えながら切符を買う。明日は前半のハイライト、ロンシャンの礼拝堂へ行く。リュールまで列車で行き、ロンシャンへはリュールからタクシーで行くしかないようだ。その先、宿泊地のブサンソンへは、ロンシャン駅にとまる各駅停車が昼にあるので、それでベルフォールまで行って乗り換える。あわせて37.3ユーロだ。
この町はもうひとつ、ナンシー派美術館という観光スポットがあるのだが、残念ながら本日月曜は定休日。エミール・ガレの作品などがあるらしいのだが見ることができない。ちょっと悔しいので、せめて目の前にまでいってやろうと、町の反対側まで歩くことにした。そろそろ日が傾きだしている。結構距離はあって、2kmくらい歩いた。美術館の正面は学校があって、生徒達が下校をしている。美術館は固く門が閉ざされていた。
道中ロンバールとラノールの家があったが、こちらも家自体はどうということはない。もう一つ、マジョレルの家というのがあって、こちらもガイド予約なしでは外から見ることしかできないのだが、この家はおもしろかった。日本語のダジャレでもないが魔女の家といっても納得するくらい奇妙な形をしている。とんがり屋根に、煙突が出ていて、2階のテラスは張り出している。窓の形がすべて異なっており、それぞれアールヌーヴォー調に装飾されている。うねるような曲線、統一されない装飾文様。装飾の見本帳みたいな家だ。
そろそろ暗くなってきた。夕食は、ランチが満足だったのでホテルの部屋で済ませることにする。スーパーにはおもしろそうな食材や温めるだけで食べられそうなものが多い。こういうとき簡単な煮炊きができる鍋とヒーターがあるといいなぁ。部屋でテレビをみながら軽い夕食。スーパーで買ったみかんがおいしい。
夕食後、完全防寒をしたうえで夜の広場を見にもういちど外へでる。期待通り、スタニスラス広場は黄金色に輝いていた。夏は人が大勢集まってイルミネーションショーをやるらしい。そっちも見たかったが、冬は人が少ないのがいいところ。鼻水をすすりながら夢中で写真をとってホテルへ戻り、9時過ぎには寝てしまった。
夜中に2度ほど近くの部屋で男の叫び声と女の悲鳴。それから大きな物音。やれやれと思うが、やがて仲裁の男らしい声も聞こえてきたので、気にしないことにした。