今日は移動が大変だ。近代建築の父と呼ばれるル・コルビジェの代表作であるロンシャンの礼拝堂へ行くのだが交通の便がよくない。日本で行き方を調べたときには今ひとつ要領がつかめず、現地で列車検索や路線図をみてやっとわかった。列車の数が少ないので、選択肢はほとんどない。礼拝堂のあときんちゃく型の川に囲まれた城砦の町、ブザンソンへ行く。
5時30分過ぎにホテルを出て駅へ行く。おなじみになった自販機コーヒーを飲みながら列車を待っているとパン屋が空いたのでクロワッサンと砂糖パンを買う。クロワッサンは残念ながら焼き立てではなかった。焼き立てとそうでないのとは倍額くらい価値が違うと思う。列車はまずはEpinelへ行く。掲示板に4番線と書いてあったので4番線にとまっているきれいな列車に乗り込んだら、駅員にこの列車は違うといわれた。4番線ホームの奥のほうに止まっていた別の古びた列車のようだ。あぶないあぶない。
しばらく列車の扉が開かず、寒いホームで待たされた。同じように何人か待たされていたが、知り合い同士なのか仲良く話をしている。誰かが駅員に早く乗せてくれと言っている(多分)。ようやく列車に乗り込み、出発だ。検札の車掌さんが僕の切符(Epinel乗り換えLure行き)をみて何か教えてくれたが、よくわからなかった。折り返しのようなジェスチャーをしていたので多分同じ列車で折り返し行けると教えてくれていたんだと思うが、Epinelの駅では念のためいったん降りて掲示板を確認した。やっぱり同じ列車でよかったようで、再度乗り込み、今度は逆向きの席に陣取る。
Lureの駅では結構たくさんの人が降りたので、ロンシャンへ行く人も何人かいるだろう、英語が通じる人だったらタクシーで相乗りしようと目論んでいたのだが、そういう様子の人は誰もいなかった。おまけに駅前のタクシー乗り場には一向にタクシーが来ない。駅に着いたのは8時30分ころで礼拝堂の開館が10時。早く行っても仕方がないのでLureの町をふらふらしてみたりしたが、ちょうどいいカフェなどもみつからず、駅に戻って駅員さんにタクシーを呼んでもらった。
5分くらいで来たタクシーは、若い女性ドライバー。気持ちのよい人だったが英語がほとんど通じない。だけど車内ではQUEENのWE ARE THE CHAMPIONSが流れていた。帰りのタクシーはどうするんだと聞かれたので、帰りはタクシーは使わずにロンシャンの駅から列車に乗ると切符を見せながら一生懸命に伝える。礼拝堂からロンシャンの駅までは歩くのか、タクシーを予約するかというので(多分)、タクシー予約をお願いした。礼拝堂から駅までは2km位あるのだ。タクシーは12時15分に迎えに来てくれるという。とても親切な人だった。タクシー代は20ユーロ。
礼拝堂の開館まではまだ40分くらいある。空は曇っていて、霧も出ている。今日も寒く、道端にはおそらく昨晩あたりに降った雪が残っている。青空のもとで礼拝堂を見たかったが、雨が降っていないだけありがたいか。礼拝堂は丘の上にあり、事務所とゲートはその下にあって広い駐車場を併設している。ゲートごしに礼拝堂の大きく曲線を描いた屋根が見える。駐車場の奥では重機が大きな音を立てながらかなりの面積を整地していて、何か新しい施設を作るみたいだ。しばらくしたらちいさな子供3人をつれた家族が車で現れた。英語を話している。子供たちが遊んでいる姿がかわいい。やがて職員の人が2人ほど出勤してきて、ゲートをあけてくれた。チケットは5ユーロ。
いよいよ今回の旅の最初のハイライトだ。反り返った独特の形の屋根が近づいてくる。水上を進む船のようだと形容されることが多いが、僕には広葉樹の葉と水の流れをあらわしているようにも見える。建物はそれほど大きくないが、存在感はすごい。曲線を基調にした美しい造形に、大小さまざまな窓が一見不規則にあけられている。変にごちゃごちゃしておらずシンプルなボリューム感があるのに、なかなか全体像を把握することが出来ないので、なんども凝視してしまう。凝視して細部を見てもまだよくわからず、視線がなんども行ったり来たりする。とても不思議な建物だ。
外から見るととても生き生きとした印象を見せる礼拝堂だが、中に入ると様子は一変する。がらんどうで大きな空間があり、右手の壁一面に穿たれた窓から斜めに陽が射してくる。正面には右上に窓がひとつだけあって、マリア像が置かれている。それから小さな穴が13個あけられていて星のようだ。祭壇はただの四角い台で、横に細木でつくられた人物大の十字架が立っている。礼拝者のベンチは右側1/3にまとめて設置され、残り2/3は広い空間になっている。天井は壁とつながっておらず、わずかな隙間から光が漏れてくる。小さな礼拝堂が3つあって、そこもコンクリ台だけのシンプルな空間だが、明り取りの塔が高く伸びていて、天空へのエレベータのように感じられる。
礼拝堂の中は冷え切っていて寒い。そのぶん、時々太陽が雲間から顔をのぞかせ、礼拝堂にさまざまな色と形の光が射し込むのがたとえようもなく美しい。祭壇の右手には燭台があって、ろうそくの火が揺らめいている。僕よりも先に見学者は来ていないので、管理している人が付けるのだろう。僕も大きい方のロウソクを献燭した。
5人連れの家族は一回りしたら帰っていった。僕は12時過ぎまで2時間たっぷりある。礼拝堂を独り占めだ。寒いのが難点だが、なんという贅沢だろう。礼拝堂の中は音の響きがとてもよい。声を出してみると、いつまでも響いていて、やがて天に昇っていくような心持ちがする。いつまでもここにいたかったが、あまりにも寒いので少しでも外にでた。
正面の祭壇の外側は、やはり野外礼拝所の祭壇になっている。その先に、なぜか小さなピラミッドがある。礼拝堂を裏手に回ると、建物とは独立して鐘が置かれている。木が茂っているので、背後からは全景を見ることが出来ない。霧はだいぶ晴れて、太陽は雲から出たり入ったりしている。礼拝堂の上も一瞬だけ青空がのぞいたりして、いい写真が取れた。
冷え切ったからだで事務所に戻り、コーヒーと暖房でときほぐしながらタクシーを待つ。写真がたくさん載っている日本語の解説書があったので迷わず購入。15ユーロ。本を買うと荷物が重くて移動が大変になるが、このくらいはいいだろう。タクシーは若い男の運転手で約束どおりの時間に来てくれたが、Lureの町へ向かおうとする。あわてて切符をみせてロンシャンの駅だというと、すこしめんどくさそうな顔をしたが、すぐに引き返してくれた。5ユーロ。
ロンシャンの駅は無人駅で、券売機どころか打刻機もない。町からすこし離れているので、結局ロンシャンの町には入らなかった。同じ列車にのる女の子が一人やってきたので挨拶をした。午後になって天気もよくなり、陽があたたかい。やがてやってきた列車はディーゼル車で一両編成だったが、新しくてきれいな車両だった。ベルフォールで乗り換えてブザンソンへ向かう。途中ずっと川沿いを走る。緩やかな流れに水が満ちていて、土地の豊かさを感じさせる。数km沖に堰があり、町の近くでは川沿いに石積みがされていてよく管理されている。堰のところには水門があって、川船が航行できるようになっている。
ブザンソンの駅は町から川を隔てた高台にあり、駅前には記念碑と道路のほかはホテル3件、バー数件があるだけだ。ホテル3件を見比べたが、ガイドブックに出ていたホテルが一番きれいそうだったのでそこに決めた。45.8ユーロ。なぜかカードを認識せずに現金払い。小さなシングルベッドの部屋だがきれいで、二重窓だった。町に出るには川へ向かって坂を下り、橋を渡る。川の中州に奇妙な形をした彫刻兼噴水がある。よく見ると人の形のようだ。中心街へ向かおうと適当ににぎやかなほうへ歩いたら、別の橋のふもとへ出てしまった。中世の町、しかも城砦都市ともなると防衛のため道がわかりやすいとは限らない。ちゃんと地図を見よう。
この町でも広場には木の小屋がならんで店をだしている。この店は他の季節でもあるのだろうか?クリスマスの音楽とイルミネーションが雰囲気を盛り上げる。クリスマスというキリスト教の祭日が冬至の日(ごろ)に設定されたのは、もともとキリスト教以前の土着の習慣で、これから日照時間が長くなる冬至の日を祝っていたものを取り込んだのだといわれているが、これだけ寒くて昼の短い地域であれば人々がこれほどクリスマスを祝うのもわかる気がする。
時刻は15時30分。暗くなるまえに町の全景がみたくて、町の背後の丘の上にある城砦へ向かう。この町は三方を蛇行した川に囲まれ、くびれている一方のみが陸続きであり、その部分に城砦が築かれている。その間には結構な空間があり、敵に攻め込まれたときに市民が避難できるようになっていたらしい。城砦の背後はコンテの山に守られていたのだと思うが、よくわからない。
丘を登る直前に、サン・ジャン大聖堂がある。こじんまりとしたカテドラルで正面広場もないが、鮮やかな緑と黄色の屋根を持つ塔が特徴的だ。内装も美しい。手前のノワール門は修理中で全面布に覆われていた。丘を登ると城門があり、もう少し先に上ると城砦のゲートがある。城砦の開館は17時までなのであまり見学時間がない。城砦は外から眺めるだけにして、しばらく町を見下ろして休憩をした。
町に戻り、グランヴェル宮殿ちかくの公園でチョコレートワッフルを買った。温かくておいしく、2.2ユーロで食いでがあった。時の博物館に入りたくて周囲を2回くらいうろうろ回ったがよくわからず、結局最初に通ったとおり沿いに見つけた。入館料は5ユーロ。大きなフーコー振り子やさまざまな時代の時計が合って、なぜブザンソンにとは思ったが面白かった。大きな振り子は見ているだけで不思議な気持ちになる。家にも作ろうか。
そろそろ外も暗くなってきた。時の博物館の塔の上から町の灯りが見える。外へ出て、イルミネーションの中をそぞろ歩きながら、夕食の検討をする。今日はちゃんとしたレストランに入りたい。Menu de Jourの看板の出ている小さなお店に入ったが、外の看板に出ていた9.9ユーロのメニューは夜はやっていないとのことだったので、17ユーロのムニュ デ レッジョーナを頼んだ。お店のおじさんはとても気持ちのいい人できびきびと働く。僕がフランス語の単語に詰まるとさりげなく英語で教えてくれる。でも基本はフランス語に誇りがあるようで、このスタンスが小気味よい。料理はボリュームたっぷりのベーコンサラダ、ソーセージとジャガイモのグラタン、ワイン1/4ボトル分、デザートは洋梨(ポワール)のタルトを選んだ。味はまあまあだったがボリュームは満点。最後にエスプレッソ2.6ユーロを追加した。
ホテルへの帰りにスーパーで地元のビール等を買って、最後に明日の切符を買いに駅へ行く。アルケスナンへの列車は7時22分しかない。製塩所の開館は10時なので2時間くらい待つことになるが仕方がない。その先、宿泊地であるリヨンへは直接行くよりもブザンソンへ戻るほうが早い。その列車は11時2分。さらにブザンソン発リヨン行きが13時20分なので、製塩所を1時間みるためにずいぶん待ち時間を使ってしまう。田舎の旅だから仕方がない。
ホテルに戻ったらTVでハリーポッターをやっていた。洗濯をしたが温水暖房の上においておけばすぐに乾きそうだ。ビールはナッツ風の面白い香りがしたが、疲れていて半分も飲めなかった。そのまま熟睡してしまった。
