フランス旅行(7日目)マルセイユへ

昨日はつかれきっていたが、12時間以上寝たので体がずいぶん楽になった。ベッドが気持ちよくて出たくない。マルセイユへは1時間くらいの距離だし列車もたくさんあるようなので切符は買っていなかった。8時前によっころしょという感じでホテルを出て、ちょうど8時過ぎの列車に乗ることが出来た。

この列車は外も中も落書きがたくさんあってきれいではない。いままで乗った列車はほとんどきれいだったので余計に目立つ。マルセイユは治安があまり良くないという話なので、少し緊張をする。<マルセイユ・サン・シャルル駅には9時過ぎに着いた。市街から少し離れているので、明日のアルル行きの7時過ぎの切符を買っておく。

とりあえず凱旋門に向かう。マルセイユは今までとうって変わって天気がよく、とてもあたたかい。東京の冬のぽかぽか暖かい日レベルくらい?僕はここまでフランスには似つかわしくないもこもこの防寒スタイルで耐え忍んでいたのだが、防寒着の類が邪魔になってしまった。暖かいと体も気持ちも軽い。

凱旋門から中心街のサントル・ブールスに向かう。ここにマルセイユ歴史博物館があるのだが、ごちゃごちゃとビルがあってどれがそれだかわからない。後で2階建てくらいのショッピングセンタービルの地下にあったと知るが、そのときはわからないのでそのまま通り過ぎて旧港へ向かってしまった。

旧港に向かう道は他の町と同じように路上に小さい店が並んでいる。なにかおいしそうなものがあったら食べようかと思ってたが、残念ながら見当たらなかった。やがてボートが並ぶ合間から青い海面が見えてくる。やっと地中海にたどり着いた。

マルセイユの旧港は長方形に掘り込まれた入り江で、岸壁はマリーナとして使われている。ほとんどのボートは白くて、マストが立っている。マストが林のようだ。港の中なので波はほとんどなく、カモメがたくさん飛んでいる。満潮なのか水位と地面の差がほとんどない。海も空もあくまで青く、海風が強い。海沿いはずっと歩道になっていて、人が大勢歩いている。少々目つきの鋭い人もいるが、観光客が多い。小さな台に水を張って魚を売る人があちこちにいる。

ガイドブックに載っていたホテルは50.9ユーロの部屋が空いていた。チェックインは15時以降と言われたので荷物を食堂に置かせてもらって町に戻る。マルセイユの見所はあまり多くないが、まずはかつて監獄としてつかわれていたイフ島に行きたかった。旧港の一番奥に遊覧船乗り場がある。次の船の時刻は12時20分。まだ1時間30分ほどあるので、近場を見学することにする。

ヴィエイユ・シャリテ(旧慈善院)というところにいくつか博物館が集まっているとのことで足を向けた。途中で食べたほうれん草のピザ2ユーロはなかなか美味。ヴィエイユ・シャリテを見つけられずにうろうろしていたら行き過ぎてしまったようで、サント・マリー・マジョール大聖堂の前に出てしまった。歩いていたら結構時間をとってしまったので、こちらを見ることにする。

サント・マリー・マジョール大聖堂はガイドブックでは紹介されていなかったが、薄茶と濃茶の石を交互に積んだストライプ模様の建物が特徴的だ。海際に立っているので、船の上からも良く見えるだろう。建物の中のアーチも茶色のツートンカラーでリズム感が面白い。

そこから海沿いにサン・ローラン教会の前を通って戻る。思ったより時間が押してしまって小走りで港を走り抜ける。こんな観光客は他には見当たらない。旧港の対岸、さらにその先の丘の上に立派な聖堂が見える。マルセイユの町のシンボルと言われる、ノートルダム・ド・ラ・ギャルドバジリカ聖堂だ。どうみても先ほどの大聖堂よりも扱いが高い。

息を切らせながら遊覧船の切符売り場に着き、イフ島行き一枚くださいというと、クローズだという。はじめ12時20分の切符販売は終了してしまった意味かと思って意気消沈し、じゃあ次の船の切符をくれといったら12時20分の切符をくれた。これはイフ島へ行くのかと聞いたら行かないという。よく考えたら、クローズ=閉鎖中ということだった。代わりに行くことになったラトナウ島がどんなところかガイドブックにも載っておらず、ちょっと躊躇したが文字通り乗りかかった船なのでそのまま行くことにした。

遊覧船はキャビンの上と船尾にオープンな席があり、風が気持ちいい。写真もとりたかったので船尾の席に陣取ったら、船員が中に入れという。しぶしぶと従ったが、出航してすぐに理由を納得した水しぶきがシャワーのようにかかるのだ。大事なカメラに塩が入ったらたまらない。港を出て外海にかかると、かなりゆれる。立っている人は両手を何かにつかまっていないと転ぶくらいだ。外の風景を写真に撮ろうとしてもファインダーが定まらない。そんな波の間に小さなヨットが走っていたりして、海の男というものはすごいなと妙に関心をする。

船はイフ島のすぐ脇を通り抜ける。ほんとうに建物1つ分しかない小島だ。こんな島に流された政治犯たちの心境やいかほどか。行き先のラトナウ島はそのすぐ先で、ちょっと安心した。こちらも端から端まで3km程度の小さい島で、小高い岩山と入り江でできている。船着場にはレストランが5~6件並んでいるが、ほとんどは閉まっていた。帰りの遊覧船までに2時間くらいあるので、マルセイユ側の眺めの良い高台に登ることにする。

この小島に来ると、改めて地中海だなぁと感じる。石灰岩の岩山に強い日差しが反射してまぶしい。写真を撮るとアンダー気味になるので常にプラス露出補正。それでも空は青く写る。風が強くて、すぐ近くを飛んでいるカモメが対地速度ゼロで静止している。この小さな島にもところどころ建物があるがほとんどは廃墟になっている。それほど古くもなさそうな建物もある。どんな人がどんな目的でここに住んでいたのだろう。ちなみに、島のマリーナにはたくさんのボートが係留されている。どう考えてもこの島の住人はそんなにいないので、マルセイユの人たちのボートだろう。

高台から見下ろすマルセイユの港とイフ島の眺めは見事なもので、来てよかった。マルセイユ側の眺めも美しいが、振り返って風上側、地中海の水平線も美しい。風が強く、波が高く、低木しか生えない岩肌は白い。船乗りたちの心意気はこのような風景をみながら培われるのだろう。

船着場に戻って昼飯を食べたいと思ったが、レストランはほとんど空いておらず、時間もなかったのでコーヒーで我慢。帰りの船は追い風なのでそれほど揺れなかった。

マルセイユに戻り、丘の上に立つノートルダム・ド・ラ・ギャルドバジリカ聖堂へ向かう。歩くとそれなりの距離になるが、だんだん近づく聖堂の姿をゆっくりと楽しめる。最後は延々と続く階段になっていた。この聖堂も先ほどの大聖堂と同様に、2色の岩を組み合わせて作られている。聖堂の前に着くと、すでに西日はだいぶ傾いている。マルセイユの町はオレンジ色に輝いている。近代的な建物も多いが、みな壁は石灰岩の色、屋根はレンガ色に統一されているので実に美しい。海の上は真っ青に晴れ渡っているが、陸の上は雲がかかっていてなんとも言えずドラマチック。暖かいこともあわせて、このままいつまでも見ていたい気分だ。

聖堂は上層と下層の2つに分かれている。下層は小さくて静かな祈りの場となっていて、窓もない。上層は明るく作られ、船にちなんだ装飾が多い。船の模型がモビールのように吊られているし、船の絵がぎっしりとかけてある。そろそろ本格的に腹が減った。階下のレストランからいいにおいがするので食事が出来るかと思って入ってみたら、まだ軽食しかやっていないようでリンゴのタルトを食べた。エスプレッソとあわせて5.5ユーロ。

もうすぐ夕暮れだ。夕日を浴びる聖堂を振り返りながら坂道を下る。次に向かうのはロンシャン宮。港から少し離れ、駅よりも更に先にある。トラムに乗ればすぐなのだが、ついつい歩いてしまった。ちょうどライトアップの始まる時間だ。少し高台になったところに半円形の建物があり、迫力がある。その中央に噴水があって実に立体的な造形だ。もう時刻が遅いので中には入れない。柵越しに写真をとる。帰りは路線もわかっているので素直にトラムに乗った。

サントル・ブールスの横でトラムを降りて、歴史博物館を探す。デパートの店員に聞いてやっと見つかった。ぱっとみてわかるような目立つ看板はなかった。入場料を払おうと10ユーロ札を出したら、おつりがないという。しばらく困った顔をしていたが、タダにしてくれた。博物館にはマルセイユで発掘された昔の木造船などが展示されている。

さて、これで今日いちにちの行動予定はほぼ終了。あとは夕食を食べるのみ。マルセイユでは是非うまいブイヤベースを食べたいと思っていたので、ホテルにチェックインするときにフロントの女の子に近場でお勧めの店を聞いた。いい店は二つあって、ひとつはガイドブックにも載っている店だがとても高い。もうひとつはいつもブイヤベースが食べられるとは限らないが行ってみる価値はあるいい店だという。とうぜん後者を選んで、店の名前を紙に書いて教えてもらった。

食事に出る前に、フロントで教えてもらったホテルの屋上に出る。ホテルは旧港に面しているので、港の夜景が良く見える。対岸のノートルダム・ド・ラ・ギャルドバジリカ聖堂も白くライトアップされている。こうやって見るとあんがい小さな港だ。

さて、教えてもらった店へ行く。ホテルから港沿いの道を200メートルくらい行ったところにあるChez Madie Les Galinettesという店で、見た目はシンプル。僕が行ったときはまだ誰も客はいなかった。店員の女性がとても親切で、英語もわかりやすい。ブイヤベースが食べられるかと聞いたら、本来は2人前からなのだが厨房に頼んでくれた。単品で十分ボリュームがあるとのことなので、他に白ワイン(Cassisカシ)を頼んだ。この隣町で作られるワインがもっともブイヤベースに合うという。テーブルの上の蝋燭に火をつけてくれて、いい雰囲気だ。<./p>

前菜にフランスパンとアリオリ(ニンニクマヨネーズ)が出てくる。これだけで結構おいしいが、腹をいっぱいにしてしまわないようにゆっくりと食べる。カシはブイヤベースとの相性を抜きにしてもおいしいワインだ。隣のテーブルに黒人と白人が一緒の年配のグループが来て、楽しげな雰囲気になってきた。と、給仕さんがトレーに大量の魚を載せて見せに来た。とっさに意味がわからず、選ぶのかと聞いたら違うという。料理する魚の確認なのだと気付き、OKと答えた。ざっと4~5種類、あわせると500~600グラムはあろうかという量だ。僕の驚いた顔を見て隣の客も笑っていた。隣のブイヤベースを頼んだので、それこそ山盛りの魚を見せに来た。

以前読んだ本では、本式のブイヤベースとは5種類以上の白身の魚のみ使い、赤身や魚介類は使わない。またあまり時間をかけずに作るべし、ということだった。その定義の通り、魚を見せられてからはあまりまたされずに、まずはスープが出てきた。見るからに濃厚なそのサフラン色のスープを一口飲んで、おもわずにやりとしてしまった。美味い!!魚の身が細かく溶け込んだ固形分いっぱいのスープは、何種類ものうまみが複雑に一体化して、ぎゅっと詰まっている。そしてまったく生臭くない。フランスパンを浸して小麦の香りと混ざり合うとなお一層おいしくなる。そしてカシの白と本当によく合う。スープを2回サービスしてくれた後、魚の身をもってきてテーブル脇で取り分けてくれる。骨を除いた身とジャガイモの上に例のスープをもう一度。魚にも旨味がちゃんとあり、ジャガイモがほくほくとしている。最初から最後までずっとこの味だったが、全く飽きることなく、一口ごとに美味さを実感した。店員の女性がときどき満足かと聞いてくる。そのたびに笑顔でイエスと答える。最後にデザートをどうするかと聞かれたが、満腹だったのでコーヒーだけ頼んで幸福な食卓を終わりにした。ブイヤベース35ユーロ、カシのハーフボトル15ユーロ、コーヒー2ユーロですこし大目にチップを置いてきた。まちがいなく今回の旅行で最高のディナーだった。

ホテルに戻り、寝支度をする。外ではバイクの音が響いたり、大声が聞こえたりしてたしかにあまり治安は良い感じがしない。夜に遠くへ出歩かなくて正解だったと思う。